卒業生からのメッセージ

'13 行動科学科(現:行動科学コース) Uさん

'13 行動科学科(現:行動科学コース) Uさん, IT業界に就職

卒業生からのメッセージ

 千葉大学文学部生の就職・進路へ興味を持たれた皆さんへ。

 私は兼ねてから志していた行動科学科*1へ入学し、2年次から文化人類学講座へ所属、今は証券システムを造るシステムエンジニアという職に就いています。金融知識もIT知識も、在学中には身に付けなかった私ですが、「こうしたケースもあるのか」と、少しでも参考になればと思い、在学中の授業と卒論について、そして私の進路選択についてお伝えします。

 ヒトの心理や思想、哲学など、「人間」へ漠然と興味を持っていた私にとって、最初の1年で5つの学問の基礎を習得し、その上で自分の専攻を選択できる千葉大学の行動科学科は大変魅力的でした。沢山の学びの中で、特に私を惹きつけたのは、人間の作り出す「イメージ(表象)」と、他者に向ける「まなざし」についてです。2年次の研究法の授業では、「『日本人』とは誰か」という問いに長らくぶつかり、私の持つイメージには私自身の文化的背景が色濃く反映されていることに気付きました。3年次の調査実習では、観光人類学の理論を用いて岐阜県白川村にてフィールドワークを行いました。このとき、「世界遺産白川郷」と掲げられた、一つの看板(これも一種のイメージ)を見ている人々や私の「まなざし」の存在と力を肌で感じました。これらの経験と、宗教人類学の授業で得たイスラーム教の見識を通して、4年次の論文のテーマは「在日外国人ムスリム女性をとりまく表象を超える」と設定しました。ヒジャーブと呼ばれる布を被る女性たちに対する“私”のイメージを出発点に、彼女たちの日々の実践はどういうもので、どう解釈可能か?構築されたイメージに対する「チャレンジ」とは?というものです。(一人ひとり多種多様なテーマを設定しているので、興味があれば卒業論文の「題目一覧*2」を見てみてくださいね。)多様な文化の存在に気付き、肯定していく。自分の文化を相対化させる。人の話す言葉の背景や文脈に興味を持ち、耳を傾ける。入学前と比べると、そんなことが可能になったと思います。

 そして卒業後は、文化人類学とは一見縁の無さそうな業界へ就職することを決めました。今の仕事は、国内外の株式を扱うシステムの構築です。しかし、現在も自分の中のあらゆるテーマは尽きません。今も千葉大学や近隣の大学で土日に開催される学習会にも参加しており、外国籍住民の課題、特に日本語教育に興味を持って生活しています。仕事においても、自己研さんしつつ日々の業務に携わっています。

 就職と専攻が結びつかないのでは、と気になっている方がいらっしゃれば、次のような考え方もあるのだと、心の片隅に留めてみてください。大学は、本当に興味のある科目の専門性を高め、自分の知的好奇心を満たすことが可能な学術機関です。キャンパスで学べるのは、これからの社会を生きるにあたり、どれもたいへん価値のある学問です。その中で、人文科学の重要性とは何でしょうか?人間と文化の見方、引いては私たちの生活そのものや私たち自身の特性、根源を捉える力を身に付けられること、それがこの学問の知見の魅力です。卒業しても、就職しても、この先変わらず自分自身の血となり肉となります。大学で身に付ける知識と経験は、「就職で役に立つかどうか」という視点で見るよりも、これから生きていく自分のウェポンであり特質になるものだ、ということを意識して頂くと良いかもしれません。進路を定め、前へ踏み出す皆さんを応援しています。

註)
*1 平成28年度より「行動科学コース」に変更。
*2 文化人類学講座ホームページ、卒業論文タイトル
http://www.l.chiba-u.ac.jp/b/anthropology/library/btheses/

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