学生による教員インタビュー

兼岡理恵先生(日本・ユーラシア文化コース)

日本・ユーラシア文化コース・兼岡理恵先生インタビュー

教員インタビュー:日本・ユーラシア文化コース 兼岡理恵先生

学生委員:2011年後期に開講している授業について教えてください。

兼岡:まず1、2年生対象に民俗・伝承論bという講義を開講しています。ここでは主に、古代以来、各地に伝わる伝説について考えていきます。たとえば古事記・日本書紀にはヤマトタケルの話がありますが、各地方には様々なバージョンで伝わっています。それがどのように生まれ、変容したのか、ひもといていく講義です。

 2年生以上を対象とした講義では、伝承文学論bを開講しており、日本最古の仏教説話集である『日本霊異記』を取り上げています。『日本霊異記』が成立したのは平安時代初めですが、題材になっているのは大和〜奈良時代の話が中心で、そこから当時の生活のありよう、仏教の信仰の様子、説話として効果的に語るために文章・構成の上でどのような工夫がなされているか、などを考えていきます。演習は『万葉集』巻七を扱っています。この巻は山、月、天、雨などの自然現象や、倭琴、故郷などの物象についての詠物歌が中心になっています。それらの歌から、当時の人の自然・物象に対する考え方や、万葉の歌をよみとくということ、歌表現について理解を深めていきます。

学生委員:講義や演習中の学生の様子、「こうあって欲しい」と思う学生の姿を教えてください。

兼岡:講義の方ではみんな概して熱心に聞いているなという印象を受けました。ただ、反応が欲しい(笑)。反応が何もないので「ちゃんと聞いてるのかな…」と不安になりながら話していると、講義後の感想カードでしっかりそこに触れられていて。「なんだ、聞いてたんだ! だったら反応してよ」と。講義中の孤独感は耐え難いですよ(笑)。

 演習は3年生以上の先輩たちが、質問の口火を切ろうと頑張ってくれていますね。演習中は学生主体で進めてほしいので、教員という立場の私はできるだけ黙っていようと思っています。

学生委員:2年生の数が多いので3年生は威厳を保とうと必死なんです(笑)。ただ2年生はまだちょっと大人しいかな、と思います。

兼岡:2年生は初めての演習ですし、まだ遠慮がありますね。前期授業の2年生の感想でも「もっと質問しないといけないとは思うけれど、どう質問すればいいかわからない」という声が多かったです。でも後期になって、同学年(2年生)の発表になったので、それまでよりは質問しやすくなったのでは、と思います。演習は「習うより慣れろ」ですからね。受け身の講義とは違って、自分で調べて発表するという立場になって初めてわかること、例えば、これまで行われてきた研究の裏側にあるもの、研究という営みがどのように積み重ねられてきたのか自ら辿る、というのが演習です。演習の場ではみんな研究者なんですよ。

学生委員:この分野を志そうと思ったきっかけは何ですか?

兼岡:あまり大きい声では言えないんですけど、消去法で (笑) 。元々『源氏物語』をやりたいと思って国文学科に進んだのですが、男女の雅な世界は読むのにはいいけれど、研究するのは自分には向いてないな、と(笑)。そこで、どうせやるなら文学の根源を見たいと考えて上代文学を選びました。次にどの作品を選ぼうかということで、『万葉集』や『古事記』『日本書紀』は、分厚い研究史があって論文も膨大で読むのが大変そう。そこで残ったのが『風土記』だったのですが、実は大学4年になるまで読んだこともありませんでした(笑)。大学時代ワンゲル部で、フィールドワークに対する憧れがあり、『風土記』をやればそれらしいものが出来るかもしれない、また先行研究が少ないから、あまり文献を読まなくても済む、さらに私は千葉・松戸の出身なので、筑波山は自宅からすぐ行けるなと思って『常陸国風土記』を選んだんです。でも実際に取り組み始めて、すぐに「しまった!」と思いました。なぜ論文が少ないか、ようやく気づいて。選ぶ前に気づけ、という感じですが。まず全体がまとまった形で残っていないし、一つ一つの記事が部分的で、多くの風土記は編者もわかりません。地理書で、いわゆる“文学”ではないですし、地方の記事なので中央の記述が中心である他文献と比較するのも難しいし。卒業論文は『常陸国風土記』説話の形成という内容でなんとかまとめました。その時点では「二度とこんな大変なことするか!」と思いましたが、中毒といいますか、風土記の説話の面白さに惹かれて、今も研究を続けています。

 私のように消去法で思いもかけない研究対象を選んでも、それがどう転ぶかわからないので、学生の皆さんには、理屈ではなく、よい意味で「流されること」、また縁を大事にしてほしいと思います。

学生委員:風土記のどの辺りに楽しさを感じましたか?

兼岡:地名起源譚ですね。ダジャレのような由来で土地の名前が付けられて、それが朝廷に提出する公文書に記される、という古代人の感覚に面白さを感じました。古代の人々が、地名をはじめとする物事の起源をどのように考えているのか窺える点、また、現在でも当時の地名が残っているというのも、風土記の魅力の一つですね。。今なお残る地名や山川などの風景を通して当時を追体験できること、古代の人々と繋がっていると感じられることが、風土記の醍醐味だと思います。

学生委員:学生時代のことを教えてください。

兼岡:院生・研究員時代に所属していた東大の日本史研究室での経験は、大きかったですね。風土記は歴史学にも関わってくるので、日本史のゼミに参加することにしたのですが、文学と歴史では同じ文献を扱っていても、アプローチの方法が全く違うことにカルチャーショックを受けました。この経験が現在に生きていると思います。

 自分の専門だけではなく、周辺学問を中心とした他の分野も見ることで新たな視野が開けるので、積極的に違う畑を見るのもとても大切だと思いますよ。デパ地下の試食のようなつまみ食いでいいんです。食べて美味しいと思ったものを、じっくり選んでゆけば良いので。

学生委員:日本・ユーラシア文化コースの魅力は何ですか?(さきほどのつまみ食いのお話を考えると、日本・ユーラシア文化コースはとても良い環境ですよね。)

兼岡:そうですね。他コースの科目を含めて、自分の関心に応じて授業が取りやすいような仕組みになっています。好きな勉強がやりやすいですよね。

学生委員:私も学部共通の仕組みは面白いと思います。

兼岡:日本・ユーラシア文化コースの皆さんは、他コースの授業も積極的に取っているイメージですよね。ちなみに学生の皆さんは、日本・ユーラシア文化コースのどのような点に魅力を感じたのですか?

学生委員:私は少人数制で、先生と近い距離でやり取りできるという点がいいな、と思ってここを選びました。

兼岡:少人数制は私も贅沢だな、と思いました。日本・ユーラシア文化コースの30人強というのは高校の1クラス感覚で、それに対して教員が10数人いるので、教員と学生の距離がとても近いですよね。

学生委員:先生との関係に限らず、学生同士でもクラス感覚で打ち解けやすいのは魅力だと思います。

兼岡:そうですよね。我々コースの教員達も、学生に負けず劣らずワイワイとやっていますよ(笑)。

学生委員:学生の皆さんへ一言お願いします。

兼岡:古典を読むことは、古代の人々の生活や思想を知るだけではなく、今の自分を知ることにも繋がります。積極的に触れていってほしいです。

 そして、頭でっかちにならず、とにかく動け、と。「思い立ったが吉日」、私の人生は大体それです。考えたことはほとんどうまくいってなくて(笑)。研究者の道も、ずっとなりたいと思っていた訳ではなく、気づいたらこうなっていたという感じです。「人生当たって砕けろ」で、五感をフル活動させて、実際に体験するのがとても大切なことだと思います。文学部生は、大学・千葉周辺から動かない人が多いという印象を受けるので、東京はじめ、色々な所に積極的に足を運ぶと良いのではないでしょうか。

学生委員:高校生へ向けて一言お願いします。

兼岡:言葉というのはそれぞれの時代・文化の世界観を表します。その言葉が表現する世界がどのようなものなのか、古代と現代の言葉の世界観はどう違うのか。今の世の中は美しいもの、感動したものに対しての表現が薄っぺらになっている気がします。様々な時代の言語表現をみていくなかで、それでは将来、どんな言語表現がなされる世の中になって欲しいのか、したいのか、など考えてほしいです。

 文学部生は理系に比べて比較的時間の自由度があるので、色々歩いて欲しいです。歩いていると、世の中面白いことがいっぱい転がっています。路上の石を見て、それを単なる石ころと見るか、光り輝く鉱物とみるか、実は隕石と発見できるかは、鋭い感性・多様な物の見方が身についているかにかかっています。それを磨くのが大学時代だから。

【インタビューを終えて:学生委員からひとこと】

「文学部」と言うと本をたくさん読むというイメージを持たれがちなのではないかと思います。確かに文献を読むことも大切な作業ですが、机の上だけではわからない文学もあるということは私自身数年学んでいく中でひしひしと感じていたことではあります。今回兼岡先生からお話を伺い、学びの場における行動力の重要性を再確認することができると同時に、先生のアクティブな姿勢を通じて私も今よりもっと積極的に取り組みたい!と学習に対する意欲も高まりました。自分自身の能力や関心を枠にはめたままでいてしまうのは、せっかく大学で学んでいるのにもったいないことだと思います。この日本・ユーラシア文化コースには個人個人で興味を持っていることを追究できる環境がありますし、先生や学生同士近い距離で関わり合える点は私自身強く魅力を感じています。学ぶことを楽しいと思える人にはとてもおすすめのコースですよ。

担当学生委員:安田佳純

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