学生による教員インタビュー

鈴木伸枝先生(行動科学コース)

文化人類学専修・鈴木伸枝先生インタビュー

教員インタビュー:行動科学コース 鈴木伸枝先生

学生委員:まず、「文化人類学」というのはどんな学問なんでしょうか?

鈴木:一言で言うと…多様な価値観を理解しようとすることだと思う。昔は「異文化」っていう言葉で言ってたけども、一体全体「異文化」が何かってことが問題かと。国が違えば文化違うじゃんっていうレベルでは、今はすでにないから。すでにここでジェネレーションギャップがあるわけだから(笑)ジェンダーギャップもあるし。

学生委員:文化人類学専修の雰囲気はどんな感じですか?

鈴木:もちろん色んな人たちがいるわけなんだけど、まず教員はかなりな部分が本音の人間で(笑)建前を好まず本音の人間が多い。あとは色んな意味でカジュアルな、と自分たちでは思ってる。あと人数が一応一番小さい専修なので、そういう意味では比較的まとまりやすい専修だとは思うんだけど。

 それとうちの特徴としてやっぱり調査実習で、一つ屋根の下で一週間ぐらい三年次にはやるから、そういう意味ではどうだろ。お互いに少し近寄れるかなと。多少なりとも。

学生委員:この専修を希望する人に対して期待する資質はありますか?

鈴木:色んなものに興味があって、それはつまらないもので言えば、たとえばお菓子のパッケージに何が入っているのかなって、そういうところから始まって、でもできれば違う価値観をもっているだろうと思われる人たちで。文化人類学として多文化、異文化、そういうものに興味がある人の方が、多分本人も面白いと思う。今いる(他の)先生、二人とも外国で調査をしているんで、そういうことに少しでも興味のある人の方が楽しいと思う。

 ただ残念なのは、今の日本の就職の状況が留学を萎縮させちゃってる部分があって。あと日本の大学っていうのは年度にこだわるから、それがある意味で、一つの足かせなんだと思うんだよね。

 あとついでに言うと世界史とか地理とかそういうのに興味のある人の方が、多分来てから面白いかなって思う。あんまり最近は、やらない学生さんも多いんだけどね。地理は先生がいないなんていうこともあるので。でもそういうの取ってきてると、少しいいかなって気がする。

学生委員:文化人類学専修のホームページには「実践的外国語能力の修得を目指して…」というようなことが書いてあるんですが、学生にある程度の英語能力あるいは外国語能力を期待しているのでしょうか。

鈴木:正直言ってあんまり期待はできないと思う。それは学生さんに対してフェアじゃないと思うのよね。っていうのも(大学に)来るまでに受験英語とかで来てるから。でもそれは自分たちで獲得する方向でやってほしいなと。やっぱり今の情勢を見ていても、一部の勘違いした人は英語に席巻されちゃうんじゃないかって思い込んでるけど、そうじゃなくてツールとして使うんだっていう形で。その中で授業は少しでも役に立つものになれば、私たちとしてはベストかなと思うけど。

 自分で使わないと語学って覚えないよね。あと私の例から言うと、恥かかないと無理っていうのはあるから。間違えたり、直されたり、そういうのでもめげないタイプの方がいいよね。緻密なよりもざっくりな方が性格的にはいいかもしれない、文人(文化人類学)は。

学生委員:先生が今研究している内容を、簡単にお願いします。

鈴木:最初にやったのは日本人とフィリピン人の結婚。その後、今は中年化しているフィリピン人の女性たちが、日本でどういう風に生活しているのかなっていうところを。二十年とかいるような人たちが、「女性である」っていうことで母親業をしていることとか、あるいはもうおばあちゃんとかいるけど。っていうのが一つ。

 それから二十年も経っちゃってるから子ども世代。ここ(日本)に住んでる子と、それからもう一つやってるプロジェクトでは、アメリカに住んでいるフィリピン人。アメリカのフィリピン系アメリカ人の大学生っていうのを(対象にしている)。で、子ども移民。子どもで移民してきた人。そこで産まれると二世じゃない。いわゆる1.5世代。でも子どもで(母国から他国へ)行ってるから、元の文化をもっていたりするから、やっぱり適用語とか展開は(日本の調査とは)色々違うんで。

学生委員:その研究で明らかにしたいもの、あるいは展望はありますか?

鈴木:正直すごく難しい問題に直面していて、例えばアメリカの1.5世代と日本に子ども移民で来てる人たちの場合に、こっちは受け入れ土壌が全然違う。移民政策がない中で、色んな法律とかが改正されたのはいいんだけども、来ちゃっててね、状況が非常に悪い。なにを改善していいのかってのは本当に個人ではできなくって、社会的なオーバーホールが必要で。今まさにそういうのをどうやったらできるのかっていうのを考え中のところ。あまりにも一人では背負いきれないような強大な、国とか、法律、政治的、法的、そしてもっと具体的な行政的なレベルで色々なことがあるの。言語教育も含めて。それも、日本化するんじゃない、一人が独立して自分で生活ができる。アイデンティティーはもちろん持ちつつ、例えば母語、母文化を持ちつつ、持ちたいんならそれを保証しながらさらにはきちんと最低限の生活ができる、そういう状況をつくる。これはもう一人ではできないんで。

 一方で概念化するってことは必要だと思う。研究者である以上はなにかしら概念的、理論的な枠組みを提示することは重要だけれども、これを絵に描いた餅で終わらせないようにするにはどうしたらいいかと、っていうところを考えて、色んな人たちと共同していくしかないのかな。本人たちも含めてね。すごく難しいところ。本人たちは毎日の生活に追われちゃってるし。インタビューできない状態だもん。スタンバイで仕事待ってたりするから。正直苦しいです。(笑)でも少しづつでも進められたらいいなっていう感じです。

学生委員:研究で苦しいところはなんですか?

鈴木:一番は歯がゆいね、自分が。問題があまりにも大きくて、一人で解決できないから。でも目の前には実際に色んな問題を抱えた人たちがいる。それをどういったような形で改善できるか、っていうか、できないことの歯がゆさっていうのはすごくあるけど。

 他方で文化人類学自体がいかに関わるか、いかに公共人類学、実践人類学、応用人類学っていうような分野でいろんな、状況が不利な人たちと一緒に働くこと、それを改善していくこと。動きがあるけれども、でも人類学者がみんなにある難しさかな。さらには改善が少しでも望めるような状況をつくること。それができないことの歯がゆさ。すぐに結果は出ないからね、我々の(研究)は。

学生委員:逆に研究でやりがいを感じたことは?

鈴木:やっぱり原点で、いろんな価値観があって、その中にいることかな。今は国籍は日本人だけども、アメリカで学びフィリピンのことを研究して、どれにも満足できずに、でもどれからもこれがいいじゃんっていうものがある。このやり方はこっちの方がいいじゃないとか、これあったら便利だよねとか、八方美人と言えなくはないけど(笑)八方美人というかね、欲張りって言われたらそれまでなんだけれど、一つにこだわらないでいられることかな。

学生委員:それはどういったときに感じられることですか?

鈴木:研究よりは日常生活の方でかな。我々は(調査対象者の)日常に入っていくからそういった中で。それは食べ物のチョイス、着るもののチョイス、そういう日常的なものから始まって、笑い声の大きさとかさ、そういう本当に普通の生活の中でもいろんな人でいられる。一人一色じゃなくて、一人五十色くらい出せるかもしれない、状況によって。それぞれの言語とか文化がもっている良いものも使えるんで。

 あとちょっとやそっとじゃビックリしないとかね。多様な価値観に常に触れているところで。ただしいわゆる普通の日本人から見たらきっと変な奴なんだろうなって思うけど(笑)でも変でいいじゃんって開き直れるくらいまで今きてるんで。どこが悪い、と(笑)

学生委員:学生とのコミュニケーションはどのくらいとっていますか?

鈴木:正直、もっとお話する機会があってもいいかなって思ってる。ちょっとした専修の集まりみたいなので、もちろん私から出ていくってことも必要なんでしょうけど、学生さんももうちょっと、なんだろうな、先生も人間だよ、みたいな。(笑)我々のもうちょっとプライベートなところに近づいてくるようなことも、双方でもうちょっとあってもいいかなって気もする。専修の新歓(新メンバー歓迎会)とか、それこそ調査実習に行ってるような時にもうちょっとそういうのが、双方で。もうちょっと近づけたら、もしかしたらお互いに習うことがあるのかなって。

 でも大学の先生っておそらく、普通の同い年くらいの大人たちよりは多分頭柔らかいと思うのよね。なんだかんだで若い人見てるから。だからもしかしたら普通の人よりも頭柔らかいかもしれない先生たちにみんなの方から近づいたら、こちらも習うものあるんじゃないかなって。ただの変なオヤジとおばさんじゃないよって(笑)

学生委員:最後に、学生に対してメッセージをお願いします。

鈴木:まず、大学の外をできるだけ見てほしい。

 もう一つは繰り返しになるけども柔軟な頭で考える。適応できるように。っていうのは、私の時代であれば一つの路線に乗っかっちゃうと、いわゆる世間でいう幸せみたいなものが勝ち取れたんだけど、今とにかく先が見えない中では、やはり常に立ち位置は変えられるだけの、柔軟な姿勢を。で、それを育てるためにはやっぱりいろんなものを見る。だから例えば一番身近なものとして、千葉大の中でも、違う地域から来た人もいるし、日本人の中でも。そしてある意味で一番手っ取り早いのは専修の中にもいろんな先輩たちいるし、学内にも留学生の人たちもいて、そういう人たちの交流ってのがこれからみんなが自分の中に持たなければいけないflexibilityを育ててくれるんじゃないかなって思うんだけど。だからもっと積極的になったらいいなって。

担当学生委員:矢内英明

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