学生による文学部授業紹介

知的情報処理論(行動科学コース専門科目)

授業紹介:知的情報処理論

君は、「はちゃめちゃ講義」を受けたことがあるか。

知的情報処理論は、認知情報科学コースの専門科目の一つです。字面からなんとなく分かる通り、AI(人工知能)関連の話題を主に扱います。

ただし、この講義をとったからといってAIを作れるようになるかというと、全くそういったことはありません!

これはこの講義に関して僕が断言できる唯一のことと言ってもいいでしょう。AIを作りたい人は別の学部に行くことをお勧めします。

なぜなら、この講義は「はちゃめちゃ講義」だからです。

大学講義の2タイプ

そもそも、大学の講義は大体2つに分かれると、勝手に僕は考えています。一つ目は「まとまり講義」、二つ目は「はちゃめちゃ講義」です。

「まとまり講義」は、毎回の講義につながりがあって、基本的に一つのテーマについて体系的に学ぶ講義です。高校の授業といえば分かりやすいでしょうか。例えば二次関数をやっていたら、きっと次の授業でも二次関数関連のことを教わりますね。高校生の皆さんにとっては、講義といえばこっちをイメージするはずです。基礎から順番に学ぶので分かりやすいという特徴があります。

もう一つは「はちゃめちゃ講義」です。一応テーマはあるんですが、もう毎授業扱うものがギュンギュン変わります。大学の講義って、意外とこっちのタイプの講義が多いんです。オムニバス形式、なんて呼び方もありますが、毎回違う先生が来て全然違う講義の話をしていく。先週はアラビアについて語られたかと思ったら、今週はファシズム下の芸術について、なんてことはザラにあります。

こちらの授業は当然基礎から丁寧に教えてもらえるわけではありません。したがって、分かりやすさという点では「まとまり講義」に劣りますが、それを超えるメリットもあります。それは、「知識の広がり」と「この授業だけでしか学べないこと」です。

「まとまり講義」では基本的に同じテーマが続いていきます。だから、知識は広がるというよりも深まっていきます。でも、その「まとまり」の外のことは知りにくいのです。

こういう講義だけでは、自分が今知ってる知識内でしか自分の興味のあることを探せません。

しかも、簡単な講義であれば本を一冊読むだけで大体のことを学べるなんてこともあります。「まとまっている」ということは、「本にまとめられる」からです(注: もちろん、レベルの高い講義では、本には書かれていないような知識もたくさん教えてもらえますよ!)。

一方で「はちゃめちゃ講義」では、先生陣が自分の興味分野をマジで勘弁してほしいくらい好き勝手話します。だから、先生陣の興味分野の数だけ、あなたの知識の範囲は広がっていくことになります。

さらに、そういった知識は普通に本を読んでいるだけでは手に入りにくい知識です。分野がバラバラということもありますが、なにより先生の興味分野の話ですから、それなりに深くて新しい話が期待できるのです。

知的情報処理論では何を学ぶの?

さて、知的情報処理論に話を戻しましょう。知的情報処理論も、この「はちゃめちゃ講義」に分類されるでしょう。他のこのタイプの講義と少し違うのは、担当が阿部先生一人だということです。

一応「知的情報処理」というテーマはあるんですが、AI以外にも色々な対象について学びます。内容は代によって違うようですが、僕の代では現代音楽や仕掛学についても学びました。仕掛学はあまり聞かない分野かもしれませんね。この学問は、人の行動を変える仕掛けについて研究します。ちょっとした仕掛けで、人々の行動は変えられる――例えば花壇に一つだけ本物そっくりの造花を紛れさせるだけでも、人々の注意を引くことができたりするんです。

さて、この講義の強みは、やはり担当が阿部先生一人だというところでしょう。

『担当一人では分野も絞られるのでは?』と思うかもしれません。確かに先生が変わる形式よりは当然範囲は絞られます。が、そもそも阿部先生の知識の範囲が広い(AI以外にも絵画、音楽、リスク認知、ことば工学、仕掛学……等)ので、まず話題が足りなくなることはありません。

ちなみに内容はめっちゃ難しいです。突然ゲーム理論の数式が出てきたり、ナッシュ均衡とか言われたりします。ナッシュ均衡もわからないうちに、ベイジアンナッシュ均衡が出てきて、頭の中ではハテナが大量発生します。

でも、それでいいんです。とりあえず細かいところは抜きに大枠だけ掴んで、興味があれば深く調べればいいんです。だって「はちゃめちゃ講義」、基礎なんて知らないまま講義を受けるわけですから、全部理解するなんてそもそも無理なんですよ。

さて、ここで担当の先生が一人であるメリットが出てきます。担当の先生が複数の授業だと、教員が授業ごとに入れ替わり,質問などがしにくくなるケースがあります。

一方で、この授業は担当が阿部先生お一人ですので、簡単に質問や相談ができます。なので、自分が興味を持った分野があれば、先生の手助けを借りて深掘りできるわけです。

また、先生が一人なので授業に柔軟性があります。例えば「仕掛学について知りたいです!」という声があれば、仕掛学の授業をしてもらえます。

分野の広さから察しの付く通りクセの強い先生による授業ですが、AIや仕掛学、絵画の評価に関する認知等(詳しくは「阿部明典」で検索してください)の分野に興味がある方には、ぜひ受講していただきたい授業です。

紹介者:久下斐縁

註:「はちゃめちゃ」って・・・・先生,ちょっとドキドキしました。まるで行き当たりばったりに授業しているような印象を持たれてしまいそうです。なるほど,大学2年生時点での見方では,そんな印象も無理もないかもしれません。なぜなら,大学で学ぶ最先端の知見は,最先端であればあるほど専門に特化し,その背景にある壮大な学問大系が見えにくいものだから。大学1,2年生は,学問の樹の一番末端の葉を見て,バラバラだなぁ,と思うのでしょう。しかし,それらの葉は大きな枝,そして幹につながっています。学びを深めていくと,そして,最先端だけでなくそれらにつながる歴史を知ると,ようやく点と点がつながって,全体像が見えてきます。積み重ね型の授業も大切ですが,料理の修業と同じで,いつもひたすらキャベツの千切りの練習じゃつまらない。できあがりのおいしい料理を味見してみて,こんな調理法もあるよ,とあなたを(厳しい?)料理の修業に誘うのが「はちゃめちゃ授業」かも知れません。(行動科学コースの一教員)

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