千葉大学文学部からのお知らせ

文学部講演会

2015/11/02 (月)

千葉大学文学部講演会(iv)

日時: 2015年11月12日(木)16:10~17:40
場所:千葉大学西千葉キャンパス・文学部203教室(どなたでも、ご参加自由)
   言語の生物学的解明とは?——記述か説明か;人間原理の観点から
講師:東京大学三浦俊彦氏・東京大学岡ノ谷一夫氏 司会:弘前大学山本秀樹氏

[内容]

言語起源の生物学が探究されるにあたって、「生物学的に」 妥当なシナリオとはどういうものだろうか。
〈言語能力に必要な脳の仕組みの理解〉は、言語の基盤(原因)の物理的解明であり、実際的な困難は別として、方法論的・哲学的に特別な問題を含まない。ヒトという特定の種に言語が備わった仕組みがわかれば目標達成であり、かりにヒトの進化がきわめてローカルで再現不可能な偶然であったとしても、脳と言語の関係の解明は個別記述として意義を持つからである。
それに対し、〈言語の進化の理解〉は、言語が進化してきた歴史的経緯の物理的記述だけで完結はしないだろう。言語が出現できた理由の論理的解明が求められる。最も一般的なレベルでは、言語は適応の産物なのか、それとも単なる偶然の結果なのか。換言すれば「いかに言語が進化してきたか」だけでなく「なぜ言語が進化できたか」の解明である。もしも生物学が地球上の生物の記述に徹するなら、進化の歴史記録と脳の仕組みの解明だけで完結する。しかし生物学が生物現象の普遍的特性に関わる理論科学であるならば、言語の進化の説明が不可欠であろう。
「言語の進化の理解」が「脳の仕組みの理解」と違って普遍妥当性を求められる理由は、ダーウィニズムの性格にある。自然選択によって進化を理解する発想は、進化に特有の法則を不要にし、最も普遍的かつ論理的なレベルで生物進化のメカニズムを説明した。どの惑星上の生物進化も、多様性からの自然選択という同じ仕組みに従うことが予測されるのである。
だからこそ、何がどのように進化するかという具体的道筋については、最小限の一般性しか前提しないのがダーウィニズムである(端的には、物理学法則以外に一切の法則を認めないのが適応主義だ、とも言えるだろう)。そのようなパラダイムの中で、言語の進化は、どれほどの蓋然性を持つ出来事だと考えられるのだろうか。
これは、「地球上での自然選択はどの程度典型的な自然選択か?」という疑問に結びつく。言語進化の研究は、特定事例の記述に徹するべきなのか、説明としての一般化を追求すべきなのか。生物学者は、自然選択史の事例として地球という唯一のサンプルしか知らない。ただ1つのサンプルからでも全体を推測する帰納的一般化は通常許されるが、サンプルが言語の出現を含む場合は別である。地球は、生物学研究の舞台として選び出されざるをえなかった。つまり言語を実現させる自然選択は生物学者の誕生の必要条件に他ならず、実在全体の反映という点では観測選択バイアスを被ったサンプルなのである。
現に起こった事象の事前確率を過大評価する傾向が人間にはあり、科学的営みも例外ではない。その「バイアスを過小評価するバイアス」は歴史研究に共通する傾向であるのみならず、理論物理学のような基礎研究にも及んでいる。歴史学と物理学の中間的性格を持つ(?)言語起源の生物学は、言語や意識という事象にどのような存在論的地位を想定しているのだろうか。ダーウィニズムの拡大版というべき「人間原理」の観点から、いくつかの問題提起を行ないたい。とりわけ、観測選択の条件は究極には言語機能ではなく意識経験なので、言語と意識の関係について問うてみたいと思う。

三浦俊彦氏による参考文献

  • 三浦俊彦 2006a 『ゼロからの論証』青土社
  • 三浦俊彦 2006b 「概念的命題、反経験的命題の確率的確証」
  • http://members.jcom.home.ne.jp/miurat1/kakuritu.pdf
  • 三浦俊彦 2007 『多宇宙と輪廻転生』青土社

参考

千葉大学 第3回文学部講演会 2014
  言語の起源—認知生物学的検討
講師: 東京大学総合文化研究科教授岡ノ谷一夫氏
[内容]言語はヒト特有の形質だが、言語を可能にする前適応は、ヒト以外の動物にも類似したものを同定することができる。特に言語の表現系としての発話行動を考えれば、発声学習、系列分節化、状況分節化の3つの機能が適切に結びつくことにより、発話の基本行動が出現すると考えられる。本講演では、これらの前適応がヒト以外の動物でどう発現しているのか、それを支える神経機構は何かを検討し、ヒトにおける言語の起源についての認知生物学的なシナリオを提出する。
 岡ノ谷一夫氏 の主要著書:『ハダカデバネズミ—女王・兵隊・ふとん係』(吉田重人共著岩波書店)、『言葉はなぜ生まれたのか』(文藝春秋)、『さえずり言語起源論—新版小鳥の歌からヒトの言葉へ』(岩波書店)、『言葉の誕生を科学する』(小川洋子共著河出書房新社)、『「つながり」の進化生物学』(朝日出版社)。

主催:千葉大学ユーラシア言語文化論講座
共催:千葉大学文学部
連絡先:菅野憲司(kanno@faculty.chiba-u.jp)

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